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隣地建物の保存に瑕疵があったために落下事故が発生したことは、ほぼ争う余地がなかったと思われます。そうであるからこそ、被告Bは「原告が解体工事の注文主であった」というやや無理のある主張をしたものと推測されます。
被告Aによる解体工事が完了してから約10か月後に外壁の剥離・落下事故が発生していますが、この期間のうちに被告Bが補修工事を実施していれば、落下事故は避けられました。しかし、実際に被告Bが補修工事を実施したのは、上記事故発生から3年が経過した令和元年11月のことでした。本件訴訟が提起されてからも約2年半後のことであり、ひょっとすると裁判所から被告Bに対し、補修工事の実施に関する何らかの働き掛けがなされたのかもしれません。いずれにせよ対応があまりに遅く、被告Bに対する請求が認容されたのは自然なことであると思われます。
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裁判所は、被告Aは「本件売買契約に付随して、原告に対し、本件解体工事後に露出した隣地建物外壁からの建材剥離によって本件土地の利用が妨げられる可能性を説明し、対処を促す法律上の義務を負っていた」と判断しました。これは、本件土地上の建物と隣地建物とが近接しており、被告Aが隣地建物の外壁の保存状況をある程度予見可能であったことや、被告Aによる解体工事によって隣地建物の外壁が風雨や紫外線にさらされるようになったこと等を重視したものと思われます。裁判所は明言していませんが、被告Aが不動産業者であったことも判断に影響した可能性があります。
いずれにせよ、被告Aと隣地建物との関わりを考慮したケース・バイ・ケースの判断であり、通常の不動産売買において、隣地の建物が老朽化していたとしても、売主が常に上記のような説明義務を負うとは限りません。
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他方、「隣地建物の老朽化の程度を具体的に予見することは困難であった」、「被告Bの同意を得ることなく隣地建物の安全対策工事を行うことはできない」との被告Aの反論には相応の説得力があるように思われます。また、通常は、外壁の落下事故が発生すれば、建物所有者が直ちに補修工事を行うことが想定されますので、本件のように被告Bの異常なまでの対応の遅さが介在したことによって拡大した損害についてまで裁判所が被告Aの責任を認めたことは、個人的には疑問を覚えるところです。 |
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本件では、不法行為に基づく損害賠償請求が認容されていますので、原告が弁護士費用を請求していれば、損害として認容されていたのではないかと思われます。原告において、回収可能性も考慮し、あえて請求に含めなかったのかもしれません。 |
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いずれにせよ、宅地建物取引業者としては安全サイドで行動すべきであると思われますので、隣地からの何らかの被害がある程度具体的に想定されるような場合には、買主にその旨を説明しておくことが望ましいと考えます。 |
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本件判決が確定したか否かは確認できていません。上記のとおり、被告Aの立場であれば、個人的には控訴して争いたいと感じます。 |
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本件は改正民法施行前の事件ですので、改正前の用語を用いています。 |