共有私道上の電柱の移設について他の共有者の協力義務を
否定した事例


弁護士 橋 田 浩


1 はじめに

 民法は、共有物に変更を加えるためには共有者全員の同意が必要であることを規定しています(251条)。これに対して共有物の管理に関する事項については共有者の持分の価格の過半数で決することができると規定しています(252条)。
 今回ご紹介する裁判例は、私道の共有者の一部の者が共有私道上の電柱の移設に同意しない他の共有者に対して、第1に共有私道上の電柱の移設は、共有物の管理にあたるところ、共有者の持分の価格の過半数により移設が決定された場合、他の共有者には信義則上これに協力すべき義務があるとして、また、第2に共有私道上の電柱の移設が共有物の変更にあたるとしても移設に反対する合理的な理由がない以上、他の共有者には信義則上これに同意すべき義務があるとして慰謝料を請求したのに対して、裁判所がいずれの請求をも排斥したものです(東京地判、平成30年1月31日)。


2 事案の概要(一部事案を簡略化しています)

(1)  本件私道は、X1、X2(X1の配偶者)、Y1、Y2(X1とY1、Y2は兄妹)、A、B、Cの共有であった。
(2)  X1、X2、Y1、Y2は、それぞれ本件私道に面する土地を所有していた(X1とX2は共有)。
(3)  本件私道には、X1X2所有の土地と本件私道の境界に近接し、X1X2所有の土地の真ん中あたりの位置に電柱があり、X1X2所有の土地から本件私道に自動車で出入りする際には、自動車の大きさによっては出入りに手間がかかるなど電柱が支障となる場合があった。
(4)  X1、X2は、本件私道に隣接する土地を取得するにあたり、電柱が前記の位置にあることは知っていたが、Y1、Y2とは兄妹の関係にあることから電柱を移設してもY1、Y2所有の建物の使用に特段の支障がなければY1、Y2は移設に同意してくれると思っていた。
(5)  X1、X2は、電柱の移設に関して次の提案を行った。
@ 現在の位置から、X1X2所有の土地とY1所有の土地の境界付近に移設する案
A 現在の位置から、Y1所有の土地内で同土地とY2所有の土地の境界付近に移設する案
B 本件電柱は撤去し、本件私道上の公道寄りにあるもう1本の電柱を1.5m〜2m、現在本件電柱がある方向に移設し、この電柱からY1及びY2所有の建物に電気を引き込む案
(6)  これに対し、
 @案に対しては、建物の景観や資産価値が損なわれるとしてY1が反対した。
 A案に対しては、Y1は同意したが、Y2の意向を確認しない状態で立案された提案であったことから、Y2所有の建物に居住するY2の子が反対したため、Y1はその意向を尊重した。
 B案に対しては、電柱から建物までの距離が長くなることによる建物側の引込取付点への荷重の増加や電線のたるみに対する懸念などから、Y1及びY2が反対した。
(7)  この間にX1、X2は、Y1及びY2以外の私道共有者から電柱の移設先の指定権限について委任を受けた。これによりX1、X2がする移設の計画は、本件私道の共有者の持分の価格の過半数の同意を得られる状況となった。


3 争点と当事者の主張の概要

(1)  電柱の移設は、共有物である本件私道の管理にあたるのか、変更にあたるのか。
 X1、X2の主張
 電柱の移設は、共有物の管理にあたる。
 Y1、Y2の主張
 電柱の移設は、共有物の変更にあたる。
(2)  電柱の移設が共有物の管理にあたるとした場合、Y1及びY2は信義則上移設に協力する義務を負うか。
 X1、X2の主張
 本件私道の共有者の持分の価格の過半数により電柱の移設が決定されている以上、Y1及びY2は信義則上移設について協力する義務を負う。
 Y1、Y2の主張
@ 本件私道の共有者の持分の価格の過半数により電柱の移設の決議がされたことは否認。
A 電柱の移設につき利益も不利益も受けない者が有する持分は民法252条の持分に参入すべきではない。
B 移設の提案はいずれもX1X2の利益のみを考慮し、他の共有者の便宜を考えないものであるから、このような案について過半数によってなされた決定は権利濫用または信義則違反で無効である。
(3)  電柱の移設が共有物の変更にあたるとした場合にY1及びY2は電柱の移設について信義則上の同意義務を負うか。
 X1、X2の主張
 電柱の移設に共有者全員の同意が必要であるとしても、Y1及びY2以外の共有者全員が電柱の移設に同意しており、しかもY1及びY2には移設に反対する合理的な理由がないから、Y1及びY2は移設に同意すべき信義則上の義務を負う。
 Y1、Y2の主張
 電柱の移設に同意すべき法的義務はない。


4 裁判所の判断

 裁判所は、上記の争点について次のとおり判断しました。
(1)  電柱の移設は、共有物である本件私道の管理にあたるか、変更にあたるか(争点(1))。
 @〜Bの提案(前記2(5)参照)は、いずれも本件私道において電柱の場所を変更するものであり、これは本件私道の状態を物理的に変更するものであるから民法251条所定の共有物の変更にあたると解するのが相当である。従って、共有者全員の同意がなければ提案にかかる電柱の移設をすることはできない。
(2)  電柱の移設が共有物の管理にあたるとした場合、Y1及びY2は信義則上移設に協力する義務を負うか(争点(2))。
 争点(1)についての判断のとおりであるから、@〜Bの提案が民法252条所定の共有物の管理にあたることを前提として、Y1及びY2が信義則上の協力義務を負うとするX1、X2の主張は、その前提を欠く。
(3)  電柱の移設が共有物の変更にあたるとした場合、Y1及びY2は電柱の移設について信義則上の同意義務を負うか(争点(3))。
 争点(3)について、裁判所は、電柱が現在の場所に建てられた経緯、本件私道及びその周辺の土地が現在の状況になった事情、X1、X2、Y1、Y2がそれぞれの所有土地を取得した経緯や@〜Bの提案とそれに対するY1及びY2の対応等についての事実を認定し、かつ、他の共有者の同意を得ないでした共有物の変更を加える行為に対して他の共有者が妨害排除請求をすることが権利濫用にあたり許されないことがあるという最高裁判決(平成10年3月24日第三小法廷)が存在することを踏まえたうえで、次のとおり判断しました。
 電柱の移設の具体的態様及びその程度と移設しないことによってX1X2の受ける社会経済的損失の重大性との対比や本件私道の共有関係の発生原因、本件私道の現在の利用状況と移設後の利用状況、移設に同意している共有者の数及び持分の割合その他の諸般の事情に照らし、Y1、Y2がX1X2の提案する電柱の移設に同意しないことが信義則上許されない場合がまったくないとまで言うことはできない。しかし、本件におけるX1X2の提案は、電柱の場所を大きく変更するものである。他方、電柱を移設しないことによってX1X2が受ける社会経済的損失は、その所有土地から本件私道に出入りする際に自動車の大きさによって出入りに時間がかかる等の支障にすぎないことや、電柱がX1、X2、Y1及びY2が土地の所有権を相続等により取得するより以前から現在の場所にあったことなどに照らせば、X1X2に有利な事情を考慮しても、なお、Y1及びY2に@ないしBの提案に同意すべき信義則上の義務があったとまで言うことはできない。


5 まとめとして

 本裁判例も含め、裁判所は共有物の状態を物理的に変える場合を「変更」と考える傾向があります。共有物の「変更」か「管理」かが問題となる場合、かかる傾向は意識しておく必要があります。
 他方、共有物の「変更」にあたる場合であっても、事情によっては他の共有者がその変更に反対することが信義則上許されない場合があることは注意を要します。



6 最後に

 令和3年4月21日成立の改正民法により、共有に関する規定が改正されました(施行は令和5年4月1日)。
 1つは、「変更」と「管理」の区別を明確にするため、251条の「変更」には、その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除くことが明記されました(従来の251条を同条1項としたうえで追加)。もっとも、どの程度の変更が「著しい」にあたるのかは今後も解釈に委ねられることになります。
 いま1つは、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、共有者の請求により、裁判所が所在等が不明の共有者以外の他の共有者の同意を得て、共有物に変更を加える旨の裁判をすることができるようになりました(251条2項新設)。

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和5年1月号執筆分