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X(原告)は学校教師で、後述する売買契約当時25歳の男性です。Xは投資の経験がありませんでしたが、不動産投資経験のある兄から宅建業者A社の紹介を受けました。A社の営業担当者であるY1・Y2(被告)は、Xに投資目的の新築ワンルームマンション2戸の購入を勧誘しましたが、Xは金融機関からの借入れの審査が通らなかったため、購入に至りませんでした。
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その後、A社の営業担当者Y1・Y2は、Xに対し、今度は中古のワンルームマンション3戸の購入を勧誘しました。その際、Y1・Y2は、Xの勤務年数が少ないので中古物件を対象にした方がローンを組みやすいこと、何年か保有した後で新築物件に買い替える方法があること、既に入居者がいる物件であり、A社がサブリース契約を締結して家賃保証をすることなどを伝え、物件のチラシと試算表を提示して、この中古ワンルームマンション3戸(マンション@〜B)を購入した場合の収益について説明しました。
なお、この物件のチラシには、マンションの所在地、築年月、専有面積、間取図、販売価格、管理費・修繕積立金等の情報が記載されていましたが、取引形態は「媒介」とされていました。また、試算表では、家賃収入とローン返済額及び管理費・修繕積立金に基づき年間収支が計算されており、マンション@の年間収支がプラス17,280円、マンションAの年間収支がマイナス19,404円、マンションBの年間収支がプラス86,100円と記載されていました。しかし、ローン返済額と管理費・修繕積立金以外に掛かる支出、例えば固定資産税等の経費は記載されていませんでした。
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(3) |
Xは、Y1・Y2の勧誘に応じ、A社との間で中古ワンルームマンション3戸を購入する旨の売買契約を締結しました。代金は、マンション@が850万円、マンションAが870万円、マンションBが750万円です(合計2470万円)。Xは、売買代金全額をノンバンクから25年ローンで借り入れて、代金支払に充てることとしました。
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上記(3)の売買契約時点では、中古ワンルームマンションが他業者所有であったので、A社は、他業者からこれを購入する売買契約を締結しました。代金は、マンション@が520万円、マンションAが520万円、マンションBが420万円です(合計1460万円)。所有権移転登記は、他業者からXに直接移転する形式で行われました(判決文では明確になっていませんが、「第三者のためにする契約」の形式で行われたものと思われます。)。
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(5) |
Xは、再度、Y1・Y2から新築マンションの一室を購入することについて勧誘を受け、売買契約書に署名しました。しかし、Xは、その後考え直し、Y1に売買を取りやめたいと伝えたところ、契約済みであるため難しいと言われました。そこで、Xは、弁護士に相談して、クーリングオフの通知をし、これが受諾されました。
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(6) |
Xは、代理人弁護士を通じて、A社に対し、上記中古ワンルームマンション3戸の勧誘の違法性と売買契約の無効を主張して、売買代金の返還を求めました。ところが、その後、A社は破産しました。A社の破産手続は、異時廃止(配当なし)で終了しました。
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(7) |
Xは、ローンの返済に窮し、債権者(抵当権者)であるノンバンクの指定する不動産業者に対し、マンション@を390万円、マンションAを390万円、マンションBを20万円で売却しました(合計800万円)。
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(8) |
Xは、代理人弁護士を通じて、Y1・Y2にはマンションの価格に関する欺罔行為(詐欺行為)又は正確な情報提供を怠った説明義務違反による不法行為が成立すると主張し、Y1・Y2を被告として、損害賠償金1100万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
1・Y2は、販売価格や販売条件は、A社の事業部の担当者が、ローン会社による評価等を参考に利益や経費を考慮して決めており、営業担当者であるY1・Y2はその決められた販売価格や条件を前提に物件の販売を行っていたにすぎないし、そもそも一従業員にしか過ぎないのであるから不法行為責任を負ういわれはないと反論しました。
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