1 はじめに
国土交通省は、令和6年3月26日に、令和6年地価公示結果(価格時点:1月1日)を公表しました。
地価公示価格は、国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する各年1月1日時点の土地の価格です。この制度は1969年に制定された「地価公示法」に基づいたもので、1970年から毎年実施されています。また、都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とともに、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
さらに、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「相続税路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
令和6年地価公示における調査地点は全国で市街化区域20,560地点、市街化調整区域1,375地点、その他の都市計画区域4,049地点、都市計画区域外の公示区域16地点の計26,000地点となっています(うち、福島第一原子力発電所事故の影響による6地点は調査を休止しています)。なお、全ての標準地の代表性、中庸性、安定性、確定性等について点検を行った結果、適正と認められた25,655地点を継続の標準地として設定し、標準地の状況の変化に伴い前記条件に合致しなくなった190地点については選定替をおこなっています。
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2 全国の地価動向
国土交通省ホームページを参考としてまとめたものが以下となります(参考資料【表2】)。
(なお、令和6年の変動率とは、令和5年1月1日から令和6年1月1日までの一年間を前提としていますのでご注意ください、以下同。)
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全国平均では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。 |
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三大都市圏平均では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。東京圏、名古屋圏では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。大阪圏では、全用途平均・住宅地は3年連続、商業地は2年連続で上昇し、それぞれ上昇率が拡大しました。
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地方圏平均では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇しました。全用途平均・商業地は上昇率が拡大し、住宅地は前年と同じ上昇率となりました。地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市、以下同)では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも11年連続で上昇しました。全用途平均・住宅地は上昇率が縮小しましたが、商業地は上昇率が拡大しました。
その他の地域では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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全国の地価は、景気が緩やかに回復している中、地域や用途により差があるものの、三大都市圏・地方圏ともに上昇が継続するとともに、三大都市圏では上昇率が拡大し、地方圏でも上昇率が拡大傾向となるなど、上昇傾向を強めています。
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「住宅地」
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東京圏の平均変動率は3.4%と3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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大阪圏の平均変動率は1.5%と3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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名古屋圏の平均変動率は2.8%と3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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地方圏のうち、地方四市の平均変動率は7.0%と11年連続の上昇でした。地方四市を除くその他の地域の平均変動率は0.6%と2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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「商業地」
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東京圏の平均変動率は5.6%と3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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大阪圏の平均変動率は5.1%と2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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名古屋圏の平均変動率は4.3%と3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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地方圏のうち、地方四市の平均変動率は9.2%と11年連続の上昇で、上昇率は拡大しました。地方四市を除くその他の地域の平均変動率は 0.6%と2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。
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「工業地」
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東京圏の平均変動率は6.2%と11年連続の上昇、大阪圏の平均変動率は6.1%と9年連続の上昇、名古屋圏の平均変動率は4.1%と3年連続の上昇で、いずれも上昇率は拡大しました。
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地方圏のうち、地方四市の平均変動率は10.6%と11年連続の上昇で、地方四市を除くその他の地域の平均変動率については2.0%と6年連続の上昇で、いずれも上昇率が拡大しました。
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なお、この1年の地価動向を都道府県地価調査との共通地点における半年ごとの地価変動率で見ると、前半(令和5年1月1日〜令和5年7月1日)後半(令和5年7月1日〜令和6年1月1日)ともに全国・三大都市圏の住宅地、商業地の全ての圏域で上昇(横ばい含む)しており、概ね後半で上昇率が拡大しました。地方圏の住宅地については、その他(地方四市を除いた市町村の区域)につき、僅かに上昇率が縮小し、商業地については、地方四市につき、上昇率が縮小しています。
3 全国の特徴的な動向
国土交通省HPなどを参考にして、全国の特徴的な動向を示す具体的地点をまとめたものが以下となります(価格の右の( )内%は対前年変動率)。
■店舗等の需要回復
[北海道札幌市中央区すすきの地区]
●札幌中央5-2[商業地]すすきの駅 200m 1,500,000円/u
(17.2%上昇)
人流回復による店舗需要の回復やすすきの駅周辺の複合商業施設の
開業に伴う集客力向上から、地価は高い上昇を見せている。
[宮城県仙台市青葉区国分町地区]
●仙台青葉5-17[商業地]広瀬通駅 500m 715,000 円/u
(2.4%上昇)
人流回復を受け、国分町通り沿いの飲食店舗需要が回復し、地価は
上昇に転じた。
[広島県広島市中区]
●広島中5-14[商業地]広島駅 1.3km 1,190,000 円/u
(5.3%上昇)
飲食店が連なる歓楽街の人流回復を受け、賑わいの更なる向上が
見込まれることから、地価の上昇が継続している。
[福岡県福岡市博多区]
●福岡博多5-9[商業地]中洲川端駅60m 1,700,000 円/u
(18.9%上昇)
人流回復を受け、飲食店舗等の旺盛な出店需要に加え、ホテルや
マンションとの需要の競合も見られることから、地価の高い上昇が
継続している。
■大手半導体メーカー進出地における地価動向
[北海道千歳市]
●千歳-19[住宅地]千歳駅 920m 76,500 円/u(23.4%上昇)
(地価上昇率(住宅地)全国2位、同北海道1位)
●千歳5-4[商業地]千歳駅 700m 86,000 円/u(30.3%上昇)
(地価上昇率(商業地)全国3位、同北海道2位)
●千歳9-2[工業地]千歳駅2.5km 15,000 円/u(19.0%上昇)
(地価上昇率(工業地)北海道2位)
千歳駅周辺ではラピダスの進出決定以降、工場建設作業員や進出予定
の関連企業の共同住宅、ホテル、事務所用地の需要が旺盛であること
から、地価の高い上昇が継続している。また、工業地については、関連
企業の工業用地等の需要が旺盛となっており、地価は大幅な上昇に
転じた。
[熊本県合志市、熊本県大津町、熊本県菊陽町]
●合志-6[住宅地]御代志駅1.9 q 29,000 円/u(16.0%上昇)
(地価上昇率(住宅地)熊本県1 位)
●菊陽-301[住宅地]光の森駅850m 102,000 円/u(13.3%上昇)
(地価上昇率(住宅地)熊本県2 位)
JASM(TSMC 子会社)による半導体の生産開始を見据え、多くの
関連企業等が進出しており、共同住宅を中心に旺盛な需要が続いて
いるものの、供給が限定的で、地価は高い上昇を見せている。
●熊本大津5-1[商業地]肥後大津(ひごおおづ)駅500m
77,000 円/u:33.2%上昇(地価上昇率(商業地)全国1 位)
●菊陽5-1[商業地]三里木駅 100m 95,500 円/u(30.8%上昇)
(地価上昇率(商業地)全国2 位)
JASM による半導体の生産開始を見据え、多くの関連企業等が進出
しており、幹線道路沿線を中心に事業所や共同住宅、ホテル等の多岐に
わたる旺盛な需要が続いているものの、供給不足となっており、地価の
高い上昇が継続している。
4 大阪府内の動向
国土交通省及び大阪府地価だよりのホームページを参考としてまとめたものが以下となります(参考資料【表3】〜【表7】)。
■大阪市内の住宅地(※( )は前年変動率、以下同)
大阪市では、3.7%上昇(1.6%上昇)。全24 区で上昇率は拡大しました。
特に中央区、西区、福島区、天王寺区、北区等の市中心部や、中心部に隣接した浪速区、城東区、都島区、鶴見区、淀川区、東成区、東淀川区において、5%以上の高い上昇率を示しています。
■大阪市外の住宅地
堺市では、2.1%上昇(1.8%上昇)。全7 区で上昇が継続し、堺区以外の区で上昇率が拡大しました。特に堺市北区は御堂筋線沿線の選好度が高く、高い上昇率を示しています。
北大阪地域では、大阪メトロ御堂筋線、阪急線、JR線等、各沿線の駅徒歩圏で交通利便性や生活利便性に優れた住宅需要が堅調であり、豊中市、吹田市、高槻市、茨木市、箕面市をはじめ、8市町で上昇が継続し、上昇率が拡大した。他の北大阪地域に比べやや利便性の劣る豊能町及び能勢町では下落が継続しているものの下落率は縮小しました。
東大阪及び南大阪地域では、交通利便性に優れ大阪市と比較した割安感のある地域の住宅需要が堅調であり、守口市、枚方市、寝屋川市、大東市、門真市、四條畷市及び交野市をはじめ、14市で上昇率が拡大した。このほか、岸和田市及び富田林市で横ばいから上昇となり、河内長野市及び松原市で下落から上昇となりました。一方で都心部から離れ利便性に劣る岬町をはじめとするその他の市町村では、下落が継続しています。
■大阪市内の商業地
大阪市では、9.4%上昇(3.3%下落)。全24 区で上昇率が拡大しました。
梅田地区では、堅調なオフィス需要及びうめきた2期の開発への期待から、上昇率が拡大しました。
インバウンド需要の影響が大きかった心斎橋・なんば地区では、国内観光客を含む大幅な人流回復を受け、店舗需要は回復しており、上昇率は大きく拡大しました。
福島区、北区、中央区、西区、浪速区では、商業地へのマンション需要から、高い上昇率を示しています。
■大阪市外の商業地
堺市では、4.4%上昇(3.7%上昇)。全7 区で上昇が継続し、美原区以外の区で上昇率は拡大しました。
北大阪地域では、北大阪急行延伸部沿線の箕面市をはじめ、全ての市町で上昇率は拡大しました。
東大阪及び南大阪地域では、泉南市及び阪南市で横ばいが継続しました。そのほかは全ての市町で上昇が継続し、貝市、東大阪市以外の市町で上昇率は拡大しました。
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5 大阪府内の特徴的な動向
国土交通省HPなどを参考にして、大阪府内の特徴的な動向を示す具体的地点をまとめたものが以下となります(価格の右の( )内の%は対前年変動率)。
■三大都市圏の最高価格及び最大上昇変動率地点の地価動向 [大阪市福島区]
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大阪福島-7 [住宅地] 新福島駅 450m 1,250,000円/u (7.8%上昇) (価格順位(住宅地)大阪圏1位)
大阪駅や市内中心部への交通利便性が良好で利便性に優れたマンション適地への需要は高く、地価の上昇が継続している。
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■三大都市圏の最高価格及び最大上昇変動率地点の地価動向 [大阪市梅田地区]
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大阪北5-28 [商業地] 大阪駅近接 23,600,000円/u (5.4%上昇)
(価格順位(商業地)大阪圏1位)
オフィス需要は堅調であり、大幅な人流回復を受け、店舗需要は回復傾向にある。また、周辺ではうめきた2 期地区の再開発事業が進展しており、発展期待感もあることから、地価の上昇が継続している。
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■三大都市圏の最高価格及び最大上昇変動率地点の地価動向
[大阪市道頓堀地区]
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大阪中央5-2[商業地]なんば駅230m 6,200,000円/u (25.3%上昇)
(地価上昇率(商業地)大阪圏1位)
道頓堀地区はインバウンドによる影響を強く受ける地域であり、入国制限の緩和以降、大幅な人流回復を受け、店舗需要が回復しており、地価は高い上昇を見せている。
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■三大都市圏の最高価格及び最大上昇変動率地点の地価動向
[大阪府箕面市]
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箕面-19[住宅地]千里中央駅※230m 18,800,000円/u (0.0%)
(箕面−19:地価上昇率(住宅地)大阪府1位) |
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箕面-10[住宅地]北千里駅※260m 4,950,000円/u (1.0%上昇)
(箕面−10:地価上昇率(住宅地)大阪府2位)
北大阪急行電鉄延伸及び再整備の事業が進捗中であり(令和6年3月開業予定)、新駅開業の期待感から、地価の上昇が継続している。
※価格時点が令和6年1月1日のため、同時点では北大阪急行線は延伸していない。 |
(参考資料)
国土交通省HP 土地水資源局 地価調査課 発表資料
大阪府地価だより 和6年3月27日発行 第98号
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