空き家にかかる税制について


税理士 石原慎一郎


T はじめに

 「空き家」「税金」をインターネットで検索すると、“実家は大丈夫?「空き家の放置で、税金6倍」”“被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例”などと出てきます。テーマは大きく二つで、管理が不十分な空き家の敷地にかかる固定資産税及び都市計画税(以下、固定資産税等という。)の負担増についてと、被相続人から相続人が取得した空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例についてです。
 前者は、空き家の管理をきちんとしない人は固定資産税等の特例を適用できないので税金を多く払ってください(増税)。後者は、被相続人が生前に居住用不動産を売却することが難しいこともあるので、死亡後でも一定の期間であれば生前と同じように特別控除を使えるようにして税金を減らしますよという優遇措置(減税)。
 増税と減税と違いはあるものの、悩みの多い空き家について、国や地方公共団体の誘導政策により、社会問題を解決していこうという取り組みです。

U 増税、減税

1 固定資産税等に負担増
 空家等対策の推進に関する特別措置法を根拠としており、同法第1条で、「空家等の活用を促進」、「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進」とあることから、“空き家=固定資産税等の増税」”ということでもありません。冒頭の検索結果は少し飛躍しているように感じます。しかし結果的には、全国的な空き家問題の対策として、固定資産税等の負担が増えることとなる可能性は十分にあります。
(1)  特定空家等の敷地についての固定資産税等
 適正な管理が行われていない空き家について、空家等対策推進法に基づく必要な措置の勧告の対象となった特定空家等に係る土地について、住宅用地に係る固定資産税等の課税標準の特例対象から除外されます。
(2)  特例対象から除外とは
 住宅用地特例を受けている宅地は(実際には負担調整措置があるので少し違いますが)、固定資産税評価額に、固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1を乗じてから各税率を掛けます。しかし、(1)の特定空家等については、固定資産税評価額に70%を乗じて各税率を掛けて固定資産税等を計算します。ですので、特例対象から除外されると必ず増税になる訳です。

2 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
 被相続人が居住の用に供していた一定の土地建物について、空き家であっても、原則として、3,000万円の特別控除の適用を受けることができるものです。平成28年度税制改正により創設されました。適用要件は次の通りです。
(1)  被相続人の居住用家屋であること
 相続開始直前に被相続人の居住用家屋であり、被相続人以外の居住者がいなかったこと(被相続人が老人ホーム等へ入所していたなど一定の場合は適用可)
(2)  家屋、土地等
 住昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建築物を除く)と、その敷地の用に供されていた土地等
(3)  対象者
 相続により上記家屋、土地等を取得した個人
(4)  適用期間
 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡
(5)  譲渡期限
 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡
(6)  譲渡対価の限度額
 譲渡対価の額が1億円を超えるものを除く


V 空き家に関する税制の課題

 1 固定資産税等の負担増
(1)  税金の三大原則である『公平』『中立』『簡素』
 今後、国や地方自治体を中心に議論、検討され、具体的な政策が決まっていくものと思いますが、管理が不十分な日本に数ある空き家をどうのようにして特定空家等と認定するのか。この家屋はダメで、こっちの家屋は大丈夫とか、各市町村によって基準が様々など、不動産の所有者が納得する基準を作成することの難しさを感じます。
(2)  そもそも趣旨は正しいのか
 すべての住宅用地に固定資産税等の住宅用地の特例を適用することが、管理が不十分な空き家を放置する理由の一つであるとの意見があります。固定資産税等を増税されるなら、管理を十分に行いますとはならないように思います。問題はそこでしょうか。

 2 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
(1)  1億円基準など生前との差異
 被相続人が居住の用に供していた等の要件を満たす居住用財産の譲渡について特別控除3,000万円を適用できるものの、生前であれば1億円を超えていても特別控除の適用があるのに(措法35@)、死亡後は建物及び土地の譲渡代金が1億円を超えるときは特別控除の適用がないなど(措法35B)、相続開始前後での適用条件の違いが多々あり、改正すべきと思います。
(2)  成年後見制度の問題
 長期間、老人ホーム等へ入所している高齢者が、空き家となっている自宅の土地建物を譲渡しようとしても、認知症などにより契約能力がないと判断され契約できず、成年後見人によっても簡単に話が進まないことがあります。空き家問題については、成年後見制度も含めて議論すべきと思います。


W おわりに

 多くの税制は、経済の流れを追うように後からできてきます。未来を予測して先にできる税制はほとんどないように思います。今回のケースはどうなのでしょうか。老朽化した戸建て賃貸住宅には空き家が多く、解体して建て替えるべきという意見があります。しかし、他に方法はないのでしょうか。
 建築資材の高騰により新築住宅、賃貸住宅市場が苦戦し、既にコロナ禍前までのビジネスモデルは成り立たなくなっているのではないかという見方もあります。空き家に関する税制が将来を見据えているかはまだ分かりませんが、今回の増税、減税は空き家のスクラップアンドビルドに繋がって行くことになるのでしょうか。


以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和7年9月号執筆分