「老朽化マンション対策のための
区分所有法・マンション管理法の改正について」


弁護士 住原秀一


1.はじめに
 区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)やマンション管理法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)などを改正する法律が国会で成立して令和7年5月30日に公布され、これに伴い、施行規則なども改正されることとなりました。この改正法は、一部の規定を除いて、令和8年4月1日に施行されます。主に、老朽化マンション対策を進めるために必要な制度を整備するために改正されました。今回の記事では、この改正法の概略について説明します。

2.改正の概略
 この改正法は、(1)管理の円滑化、(2)再生の円滑化、(3)地方自治体の取組の充実、の3つの柱に分かれています。順番に見ていきましょう。

3.改正の柱(1) 管理の円滑化
 マンション管理法の改正により、適正なマンション管理を促す仕組みが充実化されました。その一つが、管理業者管理者方式への対応です。
 多くのマンションの管理組合では、区分所有者の中から総会で理事が選任され、定期的に理事会を開いて管理方針を審議し、総会に上程されて理事会の方針を承認する形で意思決定を行う、という形がとられています。これを理事会方式といいます。管理業者のサポートを受けつつも、区分所有者が自ら理事として管理方針を審議するものであり、「自分たちのマンションの方針は自分たちで決める」というふうに、区分所有者による自治を重視する仕組みです。国土交通省のマンション標準管理規約で採用されていたため、これまではこの方式がスタンダードでした。
 しかし、理事になると理事会に頻繁に(多くの場合は毎月1回)出席しなければなりません。共働きにより時間が取りにくい世帯が増えていることや、高齢化により身体的に理事の仕事をするのが難しい世帯も増えていることから、理事を引き受けたくない、引き受けられないという区分所有者が増えています。理事のなり手が不足するケースが増えているようです。

 そこで、最近分譲されたマンションでは、管理業者管理者方式を採用するケースが増えています。管理業者管理者方式とは、管理組合に理事会を置かず、管理業者が区分所有法上の「管理者」(管理組合の機関)になって管理方針を定め、総会で管理業者の定めた方針を承認するという形で意思決定を行うものです。理事としての仕事が要らないため、区分所有者からも人気が出ているようです。
 しかし、管理者方式では、理事会による議論を経ず、「管理者」となった管理業者だけで管理方針が決定され、総会では区分所有者の無関心により実質的議論がなされないままその管理方針が承認されるおそれがある、という問題があります。特に、大規模修繕のように数千万円単位あるいは数億円単位といった多額のお金が動く工事を管理組合として発注する必要がある場合、管理業者が管理組合の「管理者」として自社に対し高めの発注をする方針を立ててしまい、区分所有者のチェックが働かず、区分所有者が知らないうちに不利益を被るということになりかねません。そこで、改正法では、管理業者が「管理者」になる場合は、@管理業者に管理者受託契約(「管理者」を引き受ける契約)について区分所有者全員に対する重要事項説明の義務を課し、A管理組合から管理業者やその関連会社に工事等を発注する場合には、発注の前に区分所有者全員に重要事項説明の義務を課すこととされました(改正マンション管理法72条1項)。
 また、区分所有法の改正により、総会の決議の定足数が引き下げられました。以前は、管理規約の定めがなければ【全ての】区分所有者の多数決とされていましたが、改正法では管理規約の定めがなくても【出席した】区分所有者の多数決によることとなりました(改正区分所有法39条1項。ただし、改正前から、多くの管理組合では、法律の原則より定足数を引き下げ、出席した区分所有者の多数決とすると管理規約で定めていました)。

さらに、区分所有法の改正により、「管理不全専有部分管理人」の制度ができました。区分所有者が専有部分の管理を放置して周囲に迷惑を掛けている場合(例:居室内への大量のゴミの放置により悪臭が生じている場合)は、裁判所に「管理不全専有部分管理人」を選任してもらい、問題の区分所有者の代わりに専有部分の管理(例:区分所有者に代わってゴミを処分する)をしてもらうことができるようになります(改正区分所有法46条の8以下)。これまでも、「共同の利益に反する行為」に当たるとして、管理組合の総会決議を取った上で訴訟をする、といった手続がありましたが、総会を開いたり訴訟をしたりと手続的な負担が重く、実現まで持って行くのは難しいものでした。しかし、「管理不全専有部分管理人」の制度は、管理者や区分所有者などの利害関係人が単独で申立てをすることができるので、比較的簡単な手続で問題解決ができるようになります。

4.改正の柱(2) 再生の円滑化
 改正法の2つ目の柱は、老朽化マンションの再生の円滑化です。
 これまでは、マンションの建替えを決定するには、管理組合の総会で、全区分所有者の5分の4(80%)以上の賛成がなければならないとされていました。しかし、区分所有法の改正により、耐震性不足や外壁の剥落、給排水管の腐食などがある場合は、4分の3(75%)以上の賛成で良いということになりました(改正区分所有法62条2項)。また、この割合の計算において、これまでは全ての区分所有者を分母としていましたが、改正後は、一定の手続を取った上で、所在不明の区分所有者を分母から除外できることになりました(改正区分所有法38条の2)。
 また、建替え以外の手法として、建替えと同じ決議要件(耐震性不足等の場合は4分の3以上の賛成)で、多数決により、@建物・敷地の一括売却、A建物を取り壊した上での敷地売却、B建物の取壊し、C一棟リノベーションなど、様々な手段を選択できるようになりました(改正区分所有法64条の5〜64条の8)。

5. 改正の柱(3) 地方自治体の取組の充実
 以上のように、管理業者に対する規制強化によって区分所有者の利益を確保したり、関係当事者が選択できる手段を新たに設けたりする改正のほか、地方自治体に対して、危険なマンションに対して管理を適正化するよう勧告する制度が充実化されました。

6. おわりに
 マンションの老朽化・区分所有者の高齢化に伴い、様々な問題が生じますが、今回の改正により問題解決の幅が広がることになります。マンションに関わる業務をされている方は、国土交通省のウェブサイトで今回の改正の詳細を確認いただくことをおすすめします。
 なお、国土交通省・法務省の担当者による説明会のアーカイブ動画が公開されています。下記の「マンション管理・再生ポータルサイト」の「令和7年度改正マンション関係法に関する説明会」を開くと、アーカイブ動画(YouTube)へのリンクや当日説明資料が載っています。また、政府の「e-Gov法令検索」から、改正後の条文も読むことができます。ぜひ一度御覧ください。

 ○国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト」
  https://www.mansion-info.mlit.go.jp/
 ○e-Gov法令検索 区分所有法
  https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069
 ○e-Gov法令検索 マンション管理法
  https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC1000000149
 ※改正法を見るには法令改正履歴の「令和8年4月1日施行」をクリック

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和7年11月号執筆分