マンション上階の床下排水管からの漏水について、管理規約の規定により
漏水した排水管は上階の専有部分に属するとして、上階所有者に対する
損害賠償請求が認容された事例


弁護士 橋 田  浩


1 はじめに

 マンションなどの区分所有建物には、各区分所有者が単独で所有し、使用できる専有部分とすべての区分所有者が共有し、使用できる共用部分があります。
 今回ご紹介する裁判例は、マンションの床下排水管からの漏水に関して、当該排水管が上階の区分所有者の専有部分か共用部分かが争われた事案です。
 裁判所は、マンションの管理規約の規定から当該排水管は上階の専有部分に属するとして、下階の区分所有者による損害賠償請求を認容しました。
 (東京地方裁判所・令和6年1月24日判決)

2 事案の概要

(1)  X及びYは都内のマンション(本件マンション)の区分所有者である。Xは202号室、Yは302号室を所有している。

(2)  令和3年11月19日、本件マンションにおいて管理組合により排水管の高圧洗浄作業が行われた。

(3)  同日、202号室のキッチン及び洗面脱衣所に漏水が発生した(本件漏水①)。
 同月20日、202号室のキッチン及びダイニングルームに漏水が発生した(本件漏水②)。
 同月27日、202号室の洗面脱衣所に漏水が発生した(本件漏水③)。

(4)  同年12月1日、302号室において漏水原因の調査を行ったところ、同室のキッチン床下の排水管(本件排水管)に長さ3㎝ほどの穴が開いていることが確認された。この穴は補修用の粘着テープで巻き上げることで補修した。

(5)  本件マンション管理規約には次の定めがある。

 区分所有者の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする(7条1項)。

 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとし、その外側は共用部分とする(7条2項)。
 1号    天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
 2号、3号 省略

 第1項及び前項の専有部分に供される設備【例として配管、電線等の本管(線)は共用部分であり、枝管(線)は専有部分となる。】のうち共用部分内(枝管であっても共用部分内にあるものは共用部分となる。)以外のものは、専有部分とする(7条3項)。

 床スラブは共用部分とする(8条)。

3 争点と当事者の主張の概要

(1)  Yの民法717条責任の有無
 Xの主張
 本件マンションの管理規約では、床スラブが共用部分であることが明記されており、床スラブと床面との間の空間は専有部分である。本件漏水①~③は、302号室の専有部分にある本件排水管(枝管)に開いた穴が原因で発生したものであるから保存の瑕疵がある。そして、専有部分にある本件排水管はYの所有物である。従って、Yは土地工作物である本件排水管の所有者として民法717条1項の責任を負う。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を
 生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
 ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を
 賠償しなければならない。
2~3 省略

 Yの主張
 本件マンションの管理規約では、天井、床及び壁は躯体部分を除く部分を専有部分とするとされ、また、給排水衛生設備等の「建物付属設備」が共用部分とされている。そうすると、302号室の床下及びその床下空間に配置された本件排水管は共用部分にあたる。従って、Yは本件排水管の所有者又は占有者にあたらない。
 また、本件排水管が高圧洗浄によって破損した可能性もあり、本件排水管に保存の瑕疵があったということもできない。

(2)  Yの不法行為の有無
 Xの主張
 Yは、本件漏水①の後、マンション管理組合からの漏水の危険があるため排水しないよう指示され、またYは自ら202号室に赴き漏水を確認しているにもかかわらず排水をして本件漏水②及び③を発生させた。
 Yは、令和4年9月24日に玄関の扉が開いていた202号室に土足で上がり込み、Xを怒鳴り続ける等をした。
 Yの主張
 否認又は争う。
 302号室で排水すれば202号室で漏水するという事実を認識しながら排水した事実はない。
(3)  Xの損害額
 省略

4 裁判所の判断

(1)  争点1(Yの民法717条責任の有無)について
 裁判所は、まず事案の概要⑴~⑸の各事実を前提事実として認定した。そのうえで、本件管理規約によれば、配管の枝管のうち、共用部分にあるもの以外は専有部分となるから、床下と床スラブとの間の空間にある本件排水管がYの専有部分に属するものかどうかは上記空間が共用部分か否かによって定まることになるとしたうえで、「天井、床及び壁は躯体部分を除く部分」を専有部分としてその外側が共用部分とされる(本件管理規約7条2項1号)一方で、床スラブは共用部分であることが明記されていることを考えると本件管理規約7条2項1号の「床」は躯体としての床を指すものと考えるのが相当であるから、本件排水管がある空間は床板を外さなければ確認できない場所であるが共用部分にあたらず、専有部分になるとした。
 その結果、土地工作物に含まれる本件排水管は、Yの専有部分に属するものであるからYが所有者であるとした。
 そして、事案の概要⑷のとおり本件排水管には3㎝ほどの穴があったことから本件排水管には保存又は設置の瑕疵があったとし、たとえ、その穴が高圧洗浄によって生じたものであるとしても、本件マンションでは定期的な高圧洗浄が予定されていたことから、その際に漏水が生じるような状態であったこと自体が保存又は設置の瑕疵といわざるをえないとし、Yの民法717条責任を認定した。

(2)  争点2(Yの不法行為責任の有無)について
 裁判所は、Yは本件漏水①を受けて管理組合の担当者から排水しないように指示を受けていたにもかかわらず排水したことが原因で本件漏水②及び③が発生したとし、その時点で漏水原因が特定されておらず排水によって階下に確実に漏水が生じるとまでYが認識していたとはいえないが、排水すれば漏水する可能性があることを認識していた点で過失があるとして、本件漏水②及び③については、民法717条責任と同時に不法行為責任を負うと認定した。
 なお、Yが令和4年9月24日に202号室に土足で上がり込んだ等のXY間でのトラブルについては、トラブルがあった事実を認定したうえで、これは慰謝料の算定の中で考慮するとした。

(3)  争点3(損害額)について
  裁判所は、原状回復工事費用、家具類の買い替え費用及び慰謝料(50万円)を認定した。なお、原状回復工事費用については、Xが損害保険により保険会社から填補を受けた額の限度で損害と認め、Xからのこれを超える部分の請求は棄却し、別途保険会社が提起した求償金請求(本件と併合)において同額を認容した。

5 本裁判例から学ぶべきこと

 マンションの排水管、とくに枝管が共用部分となるのか専有部分となるのかは、マンションの構造や管理規約の定め方によってまちまちであり、画一的なものではありません。それ故、マンションの取引を仲介するにあたってはマンションの構造や管理規約等を十分に確認したうえで、顧客に対しては内覧等では確認できない床下や天井裏等に設置された設備の瑕疵によって責任が発生する可能性があることを説明すること、あるいは売主に事前に確認を求めたり、売主との間で責任の所在を明確にしておくなどの対策を検討しておく必要があります。とくに築年数が経過している古いマンションの場合には設備の経年劣化が進行している可能性が高いためより注意が必要となります。

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和8年2月号執筆分