中古住宅の売買において建物木部一部における
シロアリ浸食跡が瑕疵に該当しないとされた事例
(東京地判 令和6年6月26日)


弁護士 広瀬元太郎


1 はじめに

 購入した築19年の中古戸建住宅において、売主から告知がなかったシロアリ浸食跡を発見した買主が、売主に対して契約解除と損害賠償を、媒介業者に対してシロアリ被害がないと誤った説明をしたとして、損害賠償を求めた事案である。裁判所は、当該浸食跡があることをもって建物に瑕疵があるとはいえない、また、媒介業者が誤った説明をしたとする主張は採用できないとした。
 本事案は、法律の解釈の問題(瑕疵にあたるかどうか)と、契約時に何を説明したか(事実認定の問題)が混在しており、どのようなケースにおいても、本件同様の判決となるものではないことに注意が必要である。

2 事案の概要

(1) 令和元年9月、売主A(当時88歳)とY1(Aの子)が共有する本件住宅(木造2階建、土地210㎡、建物延床面積138㎡、築19年)について、買主Xらは、媒介業者Y2らの媒介により、売買代金1300万円、売主の瑕疵担保責任は全部免責の条件で売買を行い、本件住宅の引渡しを受けた。Y1署名の告知書には「現在まで白蟻の被害を発見していない」欄にチェックがなされていた。

(2) 令和3年1月頃、Xらは本件住宅の一室において、木部の一部にシロアリ浸食跡を発見し、その後対応を相談した工事業者から、平成28年9月にA(売主の一人)が業者に依頼して駆除工事を行っていたことを知った。

(3) XらはY1に対し(Aはそのとき死亡していたと思われる)、シロアリ浸食跡が隠れた瑕疵にあたり、売買契約の目的が達成できないとして、売買契約の解除と、それに伴う1640万円余の損害賠償を請求した。

(4) また、Xらは、Y2に対し、「本件建物についてシロアリ浸食被害は無い旨の回答をしていた。告知書に関してシロアリに関する確認をAに怠った。ベタ基礎の建物購入を希望していたXらに対して、本件建物が布基礎であるのにXらにベタ基礎と誤った回答をした。」などと主張して、買主に生じた損害についてY1と連帯して支払うよう請求した。


3 本件の争点

  本件の争点は、以下の通りである。

シロアリ浸食跡が瑕疵にあたるか。
シロアリ浸食被害の無い建物であることが、売買契約の条件であったか。
Y2らは、高齢のAにまで、過去のシロアリ被害を聞き取る義務はあったのか。
ベタ基礎の建物であることが、売買契約の条件であったか。

4 争点に対する裁判所の判断

 裁判所は、以下の通り判示して、Xらの請求を棄却した(買主側敗訴)。

(1) 争点①について
 瑕疵とは目的物が通常有すべき品質、性能を有してないことをいう。

本件建物は、築後19年を経過した木造の中古建物であるから、相応に劣化しており、多少の損傷があることは通常想定される。したがって、本件建物の木材の一部に損傷があることをもって、直ちに目的物の瑕疵であるとはいえない。

本件損傷は和室の畳下の荒床や敷居の内側という普段利用することのない部分の損傷であり、これらによって日常的な利用が妨げられるとは認められないことから、それが通常有すべき品質、性能を欠き瑕疵であるとはいえない、とした。

(2) 争点②について
シロアリ浸食被害のない建物であることが売買契約の条件である旨の記載が契約書にない。また、このような条件がXらとY1やY2の間でやり取りされた形跡もない。

よって、シロアリ浸食被害は、本件建物の瑕疵とはいえない。

(3) 争点③について
売買契約当時、Aは88歳を超える高齢で、本件建物の売却手続きはY1が対応していた。Y2らにおいて、Y1作成の告知書に疑念を持ち、さらにAに確認すべき状況が生じていたとはいえない。Y2らに善管注意義務違反はない。

(4) 争点④について
本件売買契約において、Xらがベタ基礎の建物を購入することを希望していた事実を裏付ける証拠はなく、Y2らが、本件建物の基礎について誤った説明を行ったことを前提とするXらの主張は採用することができない。Y2らに善管注意義務違反はない。


5 本件判決からいえること

(1) 本件を見る限りにおいて、裁判所は妥当な判断をしたと考える。

(2) 一般的な中古住宅の売買において、築年数相応の損傷や劣化があることが想定されているのが当然であり、それをもとに価格が決定されたものである(損傷や劣化が全くないのであれば、それは新築住宅なみの価格になるはずである)。もちろん、購入者の日常的な利用に支障となるような重大な損傷があれば、それは買主の想定していないものであるから、瑕疵となりうるが、本件においては、畳下の荒床や敷居の内側という日常的な利用の支障になるものではなかった。

(3) 同様のシロアリ浸食跡の場所が、もし、日常生活上利用の支障になるものであれば、結論は異なることが想定される。過去のシロアリ浸食跡は、どんなものでも瑕疵にならないというわけではないので留意を要する。

(4) また、シロアリ浸食跡のない建物売買が条件であったとの事実は認定されなかったが、そのような条件が契約書等の書面に記載されていたり、仮に口頭のやり取りであったとしても記録に残り、訴訟に証拠として提出されていれば、結論は変わった可能性もある。売主、媒介業者サイドの注意事項としては、売買契約の条件としていない事項を、軽々に口頭でも約束しないことは重要である。

(5) Y1作成の「現在まで白蟻の被害を発見していない」の欄にチェックが入っていたことについて、裁判所は、Y2らが売主の一人であるAに確認を行うべき状況にはなかったと判断している。しかし、この点は微妙で、裁判所によっては、逆の結論を出す可能性もある。本件では、Aが高齢であること、Aの子であるY1が売買手続きを進めていたことを理由にY2の善管注意義務はないとしているが、売主が2名である以上は、双方に聞き取りをすべきであった。仮に、Aがそれほど高齢でなかったとしたら、判断は変わっていた可能性は高いと考える。

(6) そもそも本件トラブルは、買主に対象建物の品質に対する過剰な期待が原因のように思われる。通常であれば、日常生活上利用の支障にならない傷を発見したとしても大きな問題にはならないからである。この点、中古住宅の売買においては、日常生活上利用の支障にならない程度の傷はあるものとして価格が形成されるものである事を説明し、買主が品質につき過剰な期待をしないよう説明をしたい。
 また、シロアリ浸食被害がないことが契約条件であったか否かが争点となっているが、仮にこれを契約条件とするのであれば、この点を売買契約書に明記するよう、買主や買主側の媒介契約者が留意する必要がある。

以上


(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和8年3月号執筆分