「所有者不明土地対策」
―今後の改正法施行スケジュールと制度概要について―


弁護士 住原秀一


1 はじめに

 令和3年4月21日、民法・不動産登記法を改正する「民法等の一部を改正する法律」と、土地所有権の放棄を可能にする「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、令和3年4月28日に公布されました。
 その概要は、既に本メールマガジン第232号(令和3年7月15日配信※)で説明したとおりですが、改正法の施行日が近づいてきましたので、今後の改正法施行のスケジュールとともに、制度の概要を改めて説明します。

 ※メールマガジン第232号URL
  https://www.otc.or.jp/pages/mmg/m2107.html#C05


2 改正法施行のスケジュール

所有者不明土地等に関する改正法は、次の3段階で順次施行されます。
(1)  令和5年4月1日施行:民法の見直し(利用の円滑化)
 @財産管理制度、A共有制度、B相隣関係規定、C相続制度の見直しをした民法の改正法が施行されます。本メールマガジン第232号では、この見直しの一部を紹介しました。

(2)  令和5年4月27日施行:土地を手放すための制度の創設(発生予防)土地を手放して国の所有とする制度(相続土地国庫帰属制度)が始まります。

(3)  令和6年4月1日施行:不動産登記制度の見直し(発生予防)
 相続登記の申請義務化、住所等変更登記の申請義務化が行われます。相続登記については、負担軽減策として「相続人申告登記」の制度が設けられます。



3 各改正の概要

(1) 民法の見直し(令和5年4月1日施行)
@  財産管理制度の見直し
 現在の民法では、所有者が分からない土地を管理・処分するには、不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度を使うしかありませんでした。しかし、これらの制度は、財産管理人が人単位で財産全体を管理する必要があるため、申立ての際に高額の予納金を納付する必要があるなど、使い勝手の悪いものでした。
 そこで、改正法では、不動産単位で裁判所の選任する管理人に所有者不明土地・建物や管理不全土地・建物を管理させる制度(所有者不明土地(建物)管理人制度、管理不全土地(建物)管理人制度)を設けることとなりました(改正民法264条の2〜264条の14)。

A  共有制度の見直し
 共有者の一部と連絡が付かない場合に、裁判所の許可の下で、共有物の変更行為や管理行為を可能とする制度を設けることとなりました(改正民法251条2項、252条2項など)。
 また、裁判所の許可を受けて、連絡が付かない共有者の持分も含めて共有不動産を第三者に売却できる制度を設けることとなりました(改正民法262条の3)。これまで不明共有者がいることにより売却できなかった共有不動産も、この制度を使えば売却が可能になります。宅建業者に影響が大きいと考えられますので、本メールマガジン第232号で比較的詳しめに紹介しています。

B  相隣関係規定の見直し
 所有者不明の隣地の使用を可能にしたり(改正民法209条)、隣地を通らなければライフライン(電気・ガス・水道)を確保できない場合に電気引込線・ガス管・給水管を隣地に設置する権利(設備設置権、改正民法213条の2)を設けたりすることとなりました。これについては、本メールマガジン第232号も御覧ください。

C  相続制度の見直し
 これまで、遺産分割の期間制限はありませんでした(相続税の申告期限(被相続人死亡後10か月間)はありますが、あくまで税務上の申告期限であり、遺産分割未了でも法定相続分どおりで計算した相続税の申告が可能です。)。そのため、被相続人の死亡後何十年も経ってから、特別受益(生前贈与等)や寄与分の有無などをめぐって争いが生じ、なかなか相続人とその権利の割合(具体的相続分)が確定しないという問題がありました。
 そこで、改正法では、被相続人死亡から10年間が経過したときには、特別受益や寄与分の主張ができないものとして、画一的な法定相続分を前提に権利関係を処理することとされました(改正民法904条の3)。

(2)土地を手放すための制度の創設(令和5年4月27日施行)
 これまで、土地の所有権は放棄できないとされていましたが、一定の要件を充たす場合に国に土地を引き取ってもらえる制度ができました(相続土地国庫帰属法〔正式名称は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」〕)。
 国に土地を引き取ってもらうには、負担金を国に納付する必要があります。負担金の額は最低20万円で、宅地及び農地(市街化区域内)や森林については面積に応じて金額が決まります(例:宅地は200uで約80万円、農地は1000uで約110万円、森林は3000uで約30万円。相続土地国庫帰属法施行令4条)。
 また、建物のある土地、土壌汚染や埋設物のある土地、危険な崖がある土地、権利関係に争いがある土地、抵当権等が設定されている土地、他人によって使用される通路など、「通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要する」土地は、残念ながら本制度の対象外となっています(相続土地国庫帰属法2条、5条)。

(3) 不動産登記制度の見直し(令和6年4月1日施行)
 現行の不動産登記法上、相続登記や住所変更登記は義務ではありませんでした。しかし、これによって登記がされないまま放置される土地・建物が増加し、実際の所有者がどこの誰かが分からないことが極めて多い状態となっています。
 そこで、改正不動産登記法では、相続登記は相続による取得を知った日から3年以内に、住所変更登記はその変更日から2年以内に、登記申請することが義務化されました(改正不動産登記法76条の2、76条の5)。もし正当な理由なくこの義務を怠ったときは、相続登記については10万円以下の過料に処せられ、住所変更登記については5万円以下の過料に処せられることとなります(改正不動産登記法164条)。なお、登記申請に必要な登録免許税(登記申請の際に法務局に納める手数料のようなもの)の軽減・非課税の措置が導入されます。
 相続登記申請をするには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍と、現在の全ての相続人につながる戸籍の全てを取り寄せる必要がありますが、この負担のため登記申請ができないという人が多い状態でした。そこで、新たに「相続人申告登記」という制度が設けられることとなります(改正不動産登記法76条の3)。この制度は、登記名義人の死亡の戸籍と自分が相続人であることが分かる戸籍(例:登記名義人が親の場合、親の戸籍と自分がその子供であると分かる戸籍)を収集して法務局に申出をすれば、他の相続人の戸籍(兄弟、の戸籍など)まで取り寄せなくても良く、申出人のみを登記簿に表示するというものです。登録免許税はかかりません。売却をするには従来どおり相続登記をする必要がありますが、相続人申告登記をしておけば、差し当たり過料の制裁を受ける心配はなくなります(ただし、遺産分割成立後は相続登記申請をしてください。改正不動産登記法76条の3第4項)。



4 まとめ

 この改正によって、所有者(共有者)不明土地の利用や取引の活発化が期待されます。宅建業者の方は、ぜひこの改正を利用していただきたいと思います。

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和5年3月号執筆分